世界中の政府が収容力や資源の調査を行うようになれば、世界中の研究機関に多くの仕事が回ってくるだろう。
しかし、人口を安定させるために取るべき行動は、短期的な利益目標の計算に基づくべきものではない。
われわれには次の世代に対して、この問題に積極的に取り組む責任がある。
われわれが今日行動しなければ、明日の多くの意図せぬ死や広がる環境破壊を間接的に起こすことになる。
子どもたちに十分な食糧と水のある世界つまり十分な生存の余裕を残そうとするならば人口を安定させるという挑戦は到底やり過ごせないものなのだ。
世界経済を再構築し、持続可能な社会を創るということは、今日まで人類文明が直面した最大のチャレンジなのかもしれない。
この難題に立ち向かうには、さまざまな点で方向転換を図り、政策や優先順位を見直し、そして行動を改めなければならない。
ここの中で、私はできるだけ明確に事実を提示し、どうしたらよいか具体的な提案をいくつか述べてきた。
しかし、楽観視するのはまだまだ早い。
世界経済を支えている地球のエコシステムの枠を超えて、経済がどんどん膨張していることを示す兆候が、あちこちで目につく。
この状況が無限に続くことはありえないということもわかっている。
環境面での動向が、経済発展を制限する条件となりつつある。
これはこれまで経験したことがないことだ。
急いで進路を変えないかぎり、経済発展は否が応でも阻害されてしまうだろう。
問題は、「そのようなことが起こるかどうか」ではなく、「いつ起こるか」である。
これまで何度も、すべての問題の根っこにあり、目をつぶって済ますことのできない二つの問題に触れてきた。
人口と気候を安定させるということだ。
この二つの問題に実効ある対処をしないかぎり、「生存可能な」将来を作ることはできない。
これまで、持続可能な世界にするための、最も重要なステップを五つ述べた。
そして、正しい選択を行えばどのような世界になるかについても書いてきた。
広い森林があって、土壌は安定している。
食糧の生産は増え続ける。
効率的な交通システムが整っており、都市は人間的で暮らしやすい環境である。
そして、エネルギー分野の主軸は、太陽/水素エネルギーだ。
このように、将来の世代の可能性を阻むことなく、今日のわれわれのニーズを満たせるような世界を作るためのステップを、詳細にわたり説明してきた。
しかし、現状の深刻さを認識し、踏むべきステップを知るだけではどうにもならない。
また、実際に動く必要に迫られている。
それも急いで行動をとり、今の状況から望むべき目標への道を歩み始めなければならない。
くり返し強調してきたように、これは大規模な課題であり、小手先で少しずつ調整をしたり、手を加えたりする程度ではすまないのだ。
歴史上かつてなかったほどの規模で行動を起こすことが今日求められている。
環境を破壊しない持続可能な経済の姿がわかれば、次にすべきことは、それをどのように築くか目的地への道筋を決めることだ。
しかし、この20〜30年間環境分野で様々な研究や市民活動が行われてきたにもかかわらず、現在でも「すべきこと」と「実際の行動」の間のギャップは拡大の一途である。
残念なことに、この溝は年を追うごとにますます大きくなっているようだ。
エネルギー効率のよい太陽発電ベースの経済がどのようなものかはわかっている。
交通システムをどのように設計し直せばよいかもわかっている。
家族計画の改善には何が必要か、そしてよりよい産業システムを築いていくために何が求められているかもわかっている。
そして、実施するための技術はもうすでに用意が整っている。
しかしそれでも、この溝を埋められないでいる。
地球の実際の状況は年々悪化しており、経済システムは今でも崩壊への道をたどっている。
人類が脅威に対応できない様子を見ていると、いろいろな疑問が浮かんでくる。
われわれは、問題を次から次へとため込んでいるのだろうか?いつか手に負えなくなって政治システムへの信頼が失われ、政治が崩壊し社会がバラバラになってしまうのでは?または人間は、十分な早さで進化することができず、少しずつしのびよる脅威に対応するだけの自制や先見性を持てない種なのだろうか?地球の生態系や世界経済、政治システムの間の複雑な相互関連を理解するのに必要な知性を発達させられないのだろうか?モノや生殖行動への自分の欲求をコントロールできないのだろうか?経済学者は、世界は今後も引き続き成長するとの楽観的な見通しを述べるが、ここの立場は、明らかにこれとは違う。
これまでどおりのやり方は、それほど長く続くことはあり得ないというものだ。
まだはっきりしないのは、われわれが政治やビジネスの優先順位を変え、できるだけ早くやるべきことを実際に行うことによって傾向を変えていけるのか?それとも、環境悪化が続くあまり、食糧価格が高騰し、政治不穏が経済成長を揺るがしてやっと状況が変わるのか、ということである。
問題は、現在手に入る情報に基づいてすぐに行動を起こすか、それとも、もっと破壊的な体験をしてからでなくては行動を起こせないかということだ。
われわれが行動を変えるのは、新しい情報が出てきたときとか、これまでにない経験をしたときである。
たとえば、アメリカの喫煙に関する事例を見てみよう。
1963年にK大統領の主導により公衆衛生局長官が、「喫煙と健康の相関関係について」の最初の年次報告書を出した。
以来毎年、この年次報告書は多岐にわたる関連研究プロジェクトを生み出し、肺ガンから心臓発作や心臓病のリスクの増大まで、あらゆる角度から喫煙の関係の研究が行われており、それぞれが報告書でまとめられ、マスコミが取り上げている。
このような情報を知って喫煙をやめた人が増えている。
必ずしも病気になったから禁煙したのではなく、次々と出てくる情報に「行動を変えた方がいい」と考えを改めたからだ。
そうはいっても、情報だけではたばこをやめない人もいる。
そして、ある朝起きて血痕を吐き、はじめて問題があることに気づく。
おそらく肺ガンだろう。
そして、この段階ではもはや手遅れかもしれない。
ある意味で、今日われわれが環境の分野で直面している選択肢も同じようなものだ。
われわれWW研究所の役割は、世界が肺ガンになってしまう前に喫煙をやめさせるよう努力することだ。
ここでの「肺ガン」とは、深刻な食糧不足が広がって、第三世界の都市が混乱に陥ることかもしれない。
これまでになかった深刻な新種の病気やウィルスで、世界の人々がバタバタと死んでいくことかもしれない。
気候との関連で何が起こってもおかしくない。
たとえば、南極の大氷塊が海に流れ込み、人々がおびえるほど目に見えて突然海抜が上がるとか。
われわれが適切な行動を取らざるを得なくなるきっかけが何になるかは、だれにも予測できない。
今日の情報に対応して行動を変えるにしろ、将来より厳しい経験をしてから変えるにしろ、いずれは行動を変えなくてはならなくなるだろう。
この難題を決して過小評価すべきではない。
目の前に待ちかまえている難問の大きさに圧倒されてしまうかもしれないが、われわれには、持続可能な経済を構築するための極めて有効な政策ツールがある。
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